第13期 砂で世界旅行・チェコ&スロバキア編~盛衰の歴史と神秘の残影を訪ねて~

プラハ城や世界遺産のカレル橋、奇岩の景勝地ボヘミアン・パラダイスなど、チェコとスロバキアの歴史や文化にちなんだ砂像19作品を展示。

チェスキー・クルムロフ

チェスキー・クルムロフ

ヴルタヴァ川(モルダウ川)に囲まれた世界遺産の街チェスキー・クルムロフ。14世紀に街が出来て以降の度重なる戦火を逃れ、中世から残るオレンジ色の屋根の家々と、街の外側に広がる丘の緑との対比が鮮やかで「世界一美しい街」と評されています。この街は城を始め、至る所にだまし絵が描かれています。当時の財政難による苦肉の策と言われていますが、街全体がだまし絵装飾で統一されていることで絵本の中から飛び出してきたかのような街並みを作り上げ、訪れた人をおとぎ話の世界へと誘います。砂像彫刻者:Kevin Crawford(ケビン・クロフォード)/オーストラリア

ボヘミアン・パラダイス

ボヘミアン・パラダイス

風化や浸食により独特の形に削られた奇岩の景勝地ボヘミアンパラダイス。600万年前の地層を含む無数の巨岩が立ち並ぶプラホフ岩の他、砂岩の上に鎮座する14世紀建造のコスト城や2つの切り立った岩の上に塔が残るトロスキー城跡などがあり、広大な自然の中に人々の営みがあったことを伝えています。この地で暮らしていたのは6世紀頃からカルパチア山脈周辺より移動してきたスラブ人です。この作品ではかつての彼らの様子と雄大な自然の姿を組み合わせ、中世のボヘミアの原風景を表現しています。砂像彫刻者:Susanne Ruseler(スザンヌ・ルセラ)/オランダ

スピシュ城とモンゴルの襲来

スピシュ城とモンゴルの襲来

スロバキア東部に位置する世界遺産の廃城スピシュ城。13世紀にヨーロッパで急速に支配を拡大していたモンゴル帝国軍から国を守るための長城として建てられました。当時のモンゴルは持久力のある馬と小型で強力な弓などを使用し圧倒的な戦力と巧みな戦術で世界最強と恐れられていました。幸いにもその戦禍を免れたスピシュ城はその後増改築を経てヨーロッパ最大級の城になりましたが、1780年に火災に見舞われ荒廃して以降、現在も廃墟のままとなっています。 砂像彫刻者:JOOheng Tan(ジョヘン・タン)/シンガポール

ヤーノシークの伝説

ヤーノシークの伝説

スロバキアの国民的英雄ユライ・ヤーノシーク。彼は18世紀初頭に実在した義賊です。義賊とは裕福な家から金品を奪い貧しい人に分け与える活動をしていた山賊のことで、ヤーノシークはその盗賊団の頭領でした。彼の活動は「世の中を平等にする」と評され、庶民を中心に歓迎されていきます。彼は最期、殺人の冤罪を被り処刑されてしまいますがその人気は今なお健在で、映画になった他、刺繍の図案や民族舞踊の演目としてスロバキア各地で彼の姿を目にすることが出来ます。砂像彫刻者:Abram Waterman(エイブラム・ウォーターマン)/カナダ

天文時計とセドレツ納骨堂

天文時計とセドレツ納骨堂

15世紀に完成したプラハ旧市街にある時計塔。上部には太陽や月の位置、時刻を示す天文図文字盤、下部には星座と農村における四季の作業が分かる暦盤が作られています。時計盤の左右や上部にキリスト教の聖人や人間の大罪を擬人化した彫像が置かれたこの精巧な天文時計はプラハの名物となっています。またチェコには人骨を装飾に使用している教会が複数あります。この作品ではその一つ、セドレツ納骨堂の壁面装飾をモチーフとして天文時計塔の周囲に骸骨を彫刻しています。 砂像彫刻者:Thomas Koet(トーマス・クォート)/アメリカ

ヤン・フスと火刑

ヤン・フスと火刑

チェコの宗教改革者ヤン・フス。彼は教会が政治においても絶対的な権力を誇っていた14世紀初頭に教会のあり方を批判し、その主張を庶民にも分かるようにチェコ語で説教を行い民衆に歓迎されていきました。しかし教会のあり方を揺るがしかねないフスの主張とその人気を恐れ、教会の上層部は1415年に彼を異端として火刑に処してしまいます。死を迫られてもなお自らの主張を撤回しなかったフスの姿は、その後彼を慕う民衆がフス派と名乗り抗議活動を展開していく中で大きな道標となりました。 砂像彫刻者:Marielle Heessels(マリエレ・ヒーセルス)/オランダ

リブシェの予言

リブシェの予言

かつてチェコは予言能力をもつ賢く美しい女性リブシェが治めていたと伝えられています。ある日リブシェがヴルタヴァ川のほとりに出かけると、丘に立派な城がそびえ立っている未来の様子が見えました。彼女はその場所を示して城を築くよう周りの者に伝え、城の名をプラハと名付けました。これがプラハの城と街の始まりの伝説であり、古くからチェコの人々に愛されている物語です。作品の中ではチェコ出身のアールヌーヴォー画家ミュシャの作風を踏襲してこの伝説を表現しています。 砂像彫刻者:Ilya Filimontsev(イリヤ・フィリモンツェフ)/ロシア

ルドルフ2世とルネサンスの影響

ルドルフ2世とルネサンスの影響

プラハの文化発展に貢献した神聖ローマ帝国皇帝ルドルフ2世。彼はヨーロッパ随一の名門貴族ハプスブルク家の出身です。ルドルフ2世はその強大な権力と財力を使い、ヨーロッパ各地からプラハにアルチンボルドやジョン・ディーなどの芸術家や科学者、錬金術師を集め活動を援助しました。また彼らに作らせた物や世界各地から集めた珍品をプラハ城内の専用の展示部屋にコレクションしていきます。こうした活動により、プラハにルネサンスが定着し芸術科学文化の都として名を馳せていきました。 砂像彫刻者:Dmitrii Klimenko(ドミトリー・クリメンコ)/ロシア

プラハ城

プラハ城

世界で最も大きく古い城と言われているプラハ城。伝説によると870年頃、リブシェの予言に基づきヴルタヴァ川沿いの現在の場所に建てられました。創建後プラハ城は整備が進み、カレル1世の治世で飛躍的に発展します。その後の度重なる戦争でも大きな損傷を受けず、増改築の中で建造されたゴシック様式やロココ様式など中世以降の多彩な建築様式を今に伝えています。またこの城はチェコで起こった歴史的事件の舞台にもなってきました。こうした建築の特殊性やその歴史から、城下町を含めたプラハ城全体が1992年に世界遺産に登録されました。夜になるとライトアップも行われ、川面に映えるその姿はチェコのシンボルとして人々に親しまれています。 砂像彫刻者:Leonardo Ugolini(レオナルド・ウゴリニ)/イタリア

カレル橋とヴルタヴァ川の風景

カレル橋とヴルタヴァ川の風景

プラハ城と旧市街を結ぶ世界遺産の石橋カレル橋。市街地の区画整理や大学の設置など、現在のプラハの基礎を創ったカレル1世の命令で14世紀に建造されました。両岸には関所の役割を担っていた橋塔が橋と同じゴシック様式で建てられ、左右の欄干には聖ヤン・ネポムツキーやフランシスコ・ザビエルなど30体のキリスト教の聖人像が並んでいます。またこの橋が架けられているヴルタヴァ川はチェコ人にとって馴染みの深い川で、チェコ出身の音楽家スメタナも交響詩「わが祖国」の中にテーマとして取り上げました。カレル橋とヴルタヴァ川の作り出すこの風景は、チェコ人の心の故郷として深く愛されています。 砂像彫刻者:Sue McGrew(スー・マクグリュー)/アメリカ

プラハの錬金術

プラハの錬金術

錬金術とは金属を変化させ黄金を作り出す試みです。神聖ローマ皇帝ルドルフ2世はこれに傾倒し、首都プラハにヨーロッパ中から錬金術師を集め研究を行わせました。そこでは金の錬成に留まらず不老不死の薬や惚れ薬なども研究されていたそうです。これらの工程には溶解や蒸留など火を使う作業が多く、時には爆発など危険が伴うこともありました。現在も旧市街には薬品や本が並ぶ錬金術の研究所跡や張り巡らされた石造りの地下道が残っており、錬金術師たちの痕跡を伝えています。 砂像彫刻者:Andrius Petkus(アンドリュース・ペトクス)/リトアニア

ゴーレム伝説

ゴーレム伝説

ユダヤ教の古い伝承に登場しヘブライ語で「胎児」を意味するゴーレム。主人の命だけを聞くこの土人形は宗教指導者ラビ・レーヴにより作られました。しかし彼が使役する上での約束を破ったことで暴走し、止む無く土に戻したそうです。この土塊は今でもプラハのシナゴーグ(ユダヤ教の礼拝所)の屋根裏部屋に眠っていると言われています。このシナゴーグや墓石が折り重なるように並ぶユダヤ人墓地の存在もあり、ゴーレム伝説の舞台となった旧ユダヤ人街にはどこか幻想的な雰囲気が漂っています。 砂像彫刻者:Joris Kivits(ヨーリス・キヴィッツ)/オランダ

中欧の野生動物

中欧の野生動物

中央ヨーロッパにはスロバキアのタトリ山地やチェコのシュマバ山地など、広大な自然が広がっています。それらの原生林は国立公園に指定され、沢山の動物が生息しています。鬱蒼とした木々の間を縫いノウサギやアカギツネが駆け回り、深い森の陰からオジカが姿を現します。日が沈むと、夜の帳を切り裂きフクロウやコウモリが飛び交い、闇の中でオオヤマネコの目が浮かび上がります。またどこからかオオカミの遠吠えが響き渡り、月明かりの下でうごめく動物たちの夜は更けていきます。 砂像彫刻者:Dan Belcher(ダン・ベルチャー)/アメリカ

プラハ窓外投擲事件

プラハ窓外投擲事件

プラハでは窓から人を投げ落とすという奇異な事件が度々起きています。この窓外投擲事件はカトリックによる弾圧に対するプロテスタントの抗議活動として行われました。中でも1618年の二回目の事件はヨーロッパ全土を巻き込んだ三十年戦争のきっかけとして有名です。この作品ではフス戦争の契機となった1419年の一回目の窓外投擲事件を表現しています。彫刻家の想像力に基づく逆遠近法を駆使することで、窓から人を投げるという行為の躍動感と緊迫感が伝わってきます。  砂像彫刻者:Melineige Beauregard(メリネイジ・ビュリガード)/カナダ

文学「フランツ・カフカ」

文学「フランツ・カフカ」

チェコ出身の小説家フランツ・カフカ。プラハのユダヤ人の家庭に生まれ、会社に勤めながら小説を執筆しました。代表作『変身』『審判』『城』などの作品の中でカフカは人間の孤独や不安、不条理をシュールな世界観で表現しています。生前はほぼ無名でしたが死後再評価を受け、現在では20世紀を代表する作家として知られています。この作品ではカフカの自画像と『変身』の表紙絵と共に、朝起きると主人公が虫になっていたという『変身』の中で最も有名な場面を表現しています。 砂像彫刻者:Jakub Zimacek(ヤクブ・ジマチェク)/チェコ

民族復興運動と音楽家

民族復興運動の音楽家たち

1918年のチェコスロバキア独立の背景には18世紀後半から始まったチェコ人としての誇りを取り戻そうとする動き(民族復興運動)がありました。「わが祖国」など愛国心を込めた楽曲を制作し国民音楽の父と称されるスメタナや、交響曲第9番「新世界より」を作ったドヴォルザーク、オペラ「イエヌーファ」を作曲したヤナーチェクなどの音楽家たちがチェコの情景や伝統音楽を取り入れた楽曲を発表し、この運動を鼓舞しました。後の社会主義時代に人々をプラハの春へ掻き立てたのも、民族復興運動の中で芽生えた強い愛国心があったからなのかもしれません。 砂像彫刻者:Susanne Ruseler(スザンヌ・ルセラ)/オランダ

ビロード革命と現代化

ビロード革命と現代化

第二次世界大戦後ソ連の影響で社会主義国となったチェコスロバキア。1989年のベルリンの壁崩壊を受けチェコスロバキアでも政権交代を訴えるデモが活発化しました。その勢いに押され共産党上層部は辞任し社会主義の時代が終わります。この改革は血を流さず穏やかに遂げられたことからビロード革命と呼ばれています。1968年のプラハの春の失敗を乗り越え、ビロード革命の指導者ハヴェルを大統領とする民主主義国に生まれ変わりました。その新しい時代の象徴としてプラハにダンシングハウスが誕生します。当初は踊る男女のような奇抜な建築デザインから批判を受けましたが、現在では街の名所の一つになっています。 砂像彫刻者:Joris Kivits(ヨーリス・キヴィッツ)/オランダ

ドラゴン伝説

ドラゴン伝説

ヨーロッパ各地の童話に登場するドラゴンは、チェコのおとぎ話の中にも欠かせない存在です。中でも街で暴れていた3つの首を持つドラゴンが騎士に倒され、その栄誉により騎士は助けた娘と結ばれるという物語は有名で、映画や人形劇の題材にもなりました。こうした童話は寝物語として子供達の間で親しまれ、ドラゴンは悪役ではあるもののいつの時代も高い人気を誇っています。 砂像彫刻者:Jakub Zimacek(ヤクブ・ジマチェク)/チェコ

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人形劇とマリオネット

2016年に世界無形文化遺産に登録されたチェコを代表する芸能、人形劇。そこで使用されているのが糸繰り人形のマリオネットです。元々は旅芸人達の演目でしたが、当時庶民の言葉だったチェコ語で上演されていたことで民族復興運動の流れに乗り国内に広く浸透しました。現在のプラハではマリオネット専門店や専門劇場が軒を連ねており、連日オペラや童話、社会情勢をモチーフとした劇が上演されています。 砂像彫刻者:Jakub Zimacek(ヤクブ・ジマチェク)/チェコ